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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)8022号 判決

原告 矢田樟次

右訴訟代理人弁護士 池谷昇

被告 粕谷茂

右訴訟代理人弁護士 山田茂

主文

①  原告の請求を棄却する。

②  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の陳述等

一①  被告は原告に対し、金九九万円およびこれに対する昭和四三年六月八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

②  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二(一)  被告の父である訴外粕谷銀蔵は昭和三八年一二月一六日金二〇万円を、利息の定めなく、弁済期昭和三九年六月一五日の約で貸付けた。

(二)  銀蔵は右債権を昭和四三年五月二七日原告に譲渡し、銀蔵より被告に対するその旨の債権譲渡の通知は、同月三〇日被告に到達した。

(三)  銀蔵は昭和三六年一月一九日被告に対し、金三〇万円を弁済期同年二月二日として貸付けた。

(四)  銀蔵は被告が昭和三八年ごろ訴外真井寿一から借受けていた金一九万円を、被告の委託を受けて昭和三九年三月一四日立替弁済した。

(五)  銀蔵は、被告が昭和三七年五月一五日訴外粕谷芳夫から借受けた金二〇万円について、被告の委託を受けて、昭和三九年三月一六日立替弁済した。

(六)  被告の兄である訴外粕谷栄吉は、被告が昭和三四年四月二一日訴外小池駒次から借受けた金五〇万円の残金一〇万円を、被告の委託を受けて、昭和三八年一二月五日立替弁済した。

(七)  銀蔵は被告に対する右(三)の貸金債権三〇万円および(四)、(五)の立替弁済による求償金債権合計金三九万円を、栄吉は右(六)の立替弁済による求償金債権金一〇万円を、それぞれ原告に対し、昭和四三年五月二七日譲渡し、右譲渡の通知はいずれも昭和四三年五月三〇日右各訴外人から被告に到達した。

(八)  原告は昭和四三年六月二日被告到達の書面で右金合計九九万円を同月七日までに支払うよう催告した。

よって原告は被告に対し、右金九九万円およびこれに対する右催告による期限の翌日以降支払ずみまで民事法定利率による遅延損害金の支払を求める。

三  第二の三はいずれも否認する。

四  ≪証拠関係省略≫

第二被告の陳述等

一  主文同旨の判決を求める。

二(一)  第一の二の(一)は否認する。

(二)  同(二)のうち原告主張のとおり債権譲渡通知のあったことのみ認め、その余は否認する。

(三)  同(三)のうち、被告が銀蔵から、昭和三六年一月一九日金三〇万円を受領したことのみ認め、その余は否認する。

右は贈与を受けたものである。

(四)  同(四)は否認する。

(五)  同(五)は否認する。

(六)  同(六)は否認する。

(七)  同(七)は否認する。

三(一)  本件債権譲渡の事実が認められるとしても、いずれも訴外銀蔵、栄吉と原告が通謀してなした虚偽のものである。

(二)  仮に第一の二の(三)の貸付の事実が認められるとしても右貸付金債権は時効により消滅した。

(三)  仮に本件請求にかかる右債権の存在が認められるとしても、訴外銀蔵が昭和三七年ごろ被告所有の東京都世田谷区玉川中町一丁目所在宅地約一〇〇坪を恣に他に売却し、その代金を着服したことにより、被告は訴外銀蔵に対し、三〇〇万円の損害賠償債権を有していたので、そのころ被告と訴外銀蔵との間において、暗黙のうちに訴外銀蔵の債権と被告の右損害賠償債権を対当額において相殺する契約が存したものである。

(四)  訴外栄吉もそのころ被告に対して有する本件各債権を放棄した。

≪以下事実省略≫

理由

≪証拠省略≫を総合すると、原告が訴外粕谷銀蔵から本件各債権譲渡を受けるにあたり右各債権につき、原告が被告を相手に裁判をしてくれと頼まれたこと、原告は銀蔵および栄吉から合計金二八九万円の債権を代金一七五万円で譲り受けたこととされたが、もし原告が被告から右債権の全額を取立てることができたときは、原告は金一七五万円を超える分につき、訴外銀蔵もしくは栄吉にこれを返還するつもりであること、もし原告が右債権の取立に不成功であったときは、訴外栄吉が右買受代金一七五万円もしくはこれにかわる財産上の利益を原告に返還してくれるであろうと期待していること、原告は右債権譲渡を受けるにあたり、取立の可能性についてなんらの調査も行なわなかったこと、原告は本件について一部訴の取下がなされていることを本人尋問期日まで約六ヶ月間知らなかったことをそれぞれ認めることができ、右事実を総合勘案すれば、本件各債権譲渡は通謀虚偽表示によるとは云えないまでも、主として原告の名義を以て被告に対する訴訟を行なうことを目的としてなされた信託行為であり、信託法第一一条により無効であると云わざるを得ない。≪証拠判断省略≫

そうすると、原告は本件債権譲渡により各債権を取得したといえないから、原告の被告に対する本件各請求はその余の点について判断するまでもなく、すべて理由のないことは明らかで、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石川義夫)

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